横浜地方裁判所小田原支部 平成7年(ワ)686号 判決 2000年4月10日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、次のとおりの各金員及びこれに対する平成七年一一月二六日(被告杉本一郎については平成七年一一月二七日)から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
(一) 被告井川繁由
金四〇六万一五一八円
(二) 被告杉本一郎
金三四四万六六二七円
(三)(1) 被告瀬戸松子
金 九五万八七二八円
(2) 被告瀬戸加代子
金 三一万九五七六円
(3) 被告瀬戸豊
金 三一万九五七六円
(4) 被告瀬戸貢
金 三一万九五七六円
(四) 被告井川一人
金八九〇万四五四八円
(五) 被告佐藤照雄
金三四〇万〇五七九円
(六)(1) 被告横山さと
金 八一万二五二三円
(2) 被告横山英明
金 二七万〇八四〇円
(3) 被告近藤百合子
金 二七万〇八四〇円
(4) 被告福田けい子
金 二七万〇八四〇円
(七) 被告横山定雄
金 六九万九八七一円
(八) 被告渡邉若雄
金 五〇万八一二六円
(九) 被告内田正二
金 二七万三二三七円
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原告の請求の原因
1 原告は、昭和六三年六月九日、井川元右衛門、被告井川繁由、被告杉本一郎、瀬戸軍治、被告井川一人、被告佐藤照雄、横山政雄、被告横山定雄、被告渡邉若雄、被告内田正二(以下「井川元右衛門ら」という。)との間で、井川元右衛門ら所有の神奈川県南足柄市怒田字長田<番地略>の土地外二八筆の土地(以下「本件土地」という。)について、次のとおりの内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(一) 井川元右衛門らは、原告が本件土地に残土を埋め立てるために本件土地を原告に使用させ、本件土地についての埋立工事や区画整理作業等に関し、諸官庁その他の必要事項については、原告の要請に全面的に協力する。
(二) 原告は、井川元右衛門らに対し、(一)の計画を立てて井川元右衛門らと契約した残土処理業者が七か年分の地代を滞納したまま契約を抛棄したので、前業者の七か年分の滞納地代相当分合計一七九五万三〇〇五円を支払う。
(三) 本件土地への大型車(一〇トン車)車両進入道路は井川元右衛門らにおいて確保する。
(四) 残土の埋土、区画整理等の作業は三か年で完了する。
(五) 右三か年間の地代は無償とする。
2(一) 井川元右衛門は平成二年一二月五日死亡し、被告井川繁由が相続により本件契約上の地位を承継した。
(二) 瀬戸軍治は平成六年三月二九日死亡し、妻被告瀬戸松子、長女被告瀬戸加代子、長男被告瀬戸豊、二男被告瀬戸貢が相続により本件契約上の地位を承継した。
(三) 横山政雄は平成四年六月五日死亡し、妻被告横山さと、二男被告横山英明、長女被告近藤百合子、二女被告福田けい子が本件契約上の地位を承継した。
3 原告は、昭和六三年六月九日、本件契約に基づき、次の者に対しそれぞれ次の金員(合計一七九五万三〇〇五円)を支払った。
(一) 井川元右衛門
八七万九九〇〇円
(二) 被告井川繁由
二〇五万五九〇〇円
(三) 被告杉本一郎
二四九万一三三五円
(四) 瀬戸軍治
一三八万六〇〇〇円
(五) 被告井川一人
六四三万六五〇〇円
(六) 被告佐藤照雄
二四五万八〇五〇円
(七) 横山政雄
一一七万四六三五円
(八) 被告横山定雄
五〇万五八九〇円
(九) 被告渡邉若雄
三六万七二九〇円
(一〇) 被告内田正二
一九万七五〇五円
4(一) 本件土地については、前計画業者の株式会社大箱根産業(以下「大箱根産業」という。)が約一五〇〇万円の費用をかけて既に排水管工事を施工済であったところ、右排水管工事は原告が残土処理による埋立をするために必要な工事であったし、被告らにとっても農業用水の確保と水害防止のために有益な工事であったから、原告は大箱根産業から右配水管工事の権利を承継した青山一雄(以下「青山」という。)との話し合いで、右排水管工事費のうち一〇〇〇万円を原告が負担することとした。そして、原告は青山に六八八万四〇〇〇円を支払ったが、残金三一一万六〇〇〇円については残土処理による埋立が進まないことを理由に青山から支払の免除を受けた。
(二) 右六八八万四〇〇〇円を各所有土地の面積割合で按分すると、次のとおりとなる。
(面積割合)
(1) 井川元右衛門
三三万七三九二円 4.9011%
(2) 被告井川繁由
七八万八三二六円 11.4515%
(3) 被告杉本一郎
九五万五二九二円 13.8769%
(4) 瀬戸軍治
五三万一四五六円 7.7201%
(5) 被告井川一人
二四六万八〇四八円 35.8519%
(6) 被告佐藤照雄
九四万二五二九円 13.6916%
(7) 横山政雄
四五万〇四〇八円 6.5428%
(8) 被告横山定雄
一九万三九八一円 2.8179%
(9) 被告渡邉若雄
一四万〇八三六円 2.0458%
(10) 被告内田正二
七万五七三二円 1.1002%
5 ところで、原告は、昭和六三年七月埋立用の残土を本件土地に搬入しようとしたところ、本件土地への車両進入道路の所有者である井川章から、「自分は進入道路のうち自己所有地を使用することの承諾を与えていないので、右自己所有地部分の使用は認めない」旨申し入れられ、運搬車両として必要な一〇トン車(全幅二メートル四九センチメートル)の通行が不能となり、その結果本件土地を使用することができない状態になった。
しかし、被告らは、井川章から進入道路使用の承諾を得なかった。
6 そこで、原告は、被告らに対し、平成七年一一月二五日(被告杉山一郎については平成七年一一月二六日)送達の訴状で、被告らの債務不履行を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をなした。
7 原告は、本件契約の解除により、前業者の滞納地代相当分合計一七九五万三〇〇五円の支払につき原状回復請求権としての返還請求権がある。また、原告は、本件契約の解除により、青山への排水管工事費六八八万四〇〇〇円の支払が無駄となり、右金員相当の損害を被った。
8 よって、原告は、被告らに対し、本件契約の解除に基づく原状回復請求権及び損害賠償請求権により、それぞれ次のとおりの金員(相続により本件契約の地位を承継した被告らについてはそれぞれ法定相続分に従い金員を算出)及びこれに対する訴状送達による催告の日の翌日の平成七年一一月二六日(被告杉本一郎については平成七年一一月二七日)から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(一) 被告井川繁由
四〇六万一五一八円
(二) 被告杉本一郎
三四四万六六二七円
(三)(1) 被告瀬戸松子
九五万八七二八円
(2) 被告瀬戸加代子
三一万九五七六円
(3) 被告瀬戸豊
三一万九五七六円
(4) 被告瀬戸貢
三一万九五七六円
(四) 被告井川一人
八九〇万四五四八円
(五) 被告佐藤照雄
三四〇万〇五七九円
(六)(1) 被告横山さと
八一万二五二三円
(2) 被告横山英明
二七万〇八四〇円
(3) 被告近藤百合子
二七万〇八四〇円
(4) 被告福田けい子
二七万〇八四〇円
(七) 被告横山定雄
六九万九八七一円
(八) 被告渡邉若雄
五〇万八一二六円
(九) 被告内田正二
二七万三二三七円
二 請求の原因に対する被告らの認否
1 請求の原因1の事実中、(三)の約定が存したとの点は否認するが、その余の事実は認める。
被告らは原告に対し一〇トン車が通行できる進入道路確保義務を負ってはいなかった。また、前業者の滞納地代相当分の支払は、後記のとおり、賃料もしくは権利金又は立替金としての支払である。
2 同2及び3の事実は認める。
3 同4(一)の事実は否認し、(二)の事実は知らない。
4 同5の事実は否認する。
前記のとおり本件土地への進入道路は一〇トン車の通行を前提としたものではなかった。もっとも、本件土地への進入道路は大箱根産業が利用していたものであり、その幅員は国有畦畔や水路等公の部分だけで四メートル以上あるところ、右水路については井川章がその一部を南足柄市から賃借している部分があるが、当該部分を除いても、南足柄市が井川と交換により取得した九尺幅の市道部分を加えると、本件土地への進入道路は一〇トン車が十分通行可能な幅員のものであった。
5 同6の事実は認める
6 同7の事実は否認する。
三 被告らの抗弁及び主張
1 本件契約においては、原告は、契約締結後三か年以内に埋土工事等を完了する義務があったところ、右期間内に完了しなかったのであるから、本件契約は契約締結後三年の平成三年六月九日の経過により失効した。
2 仮にしからずとしても、原告は契約締結後三か年以内に埋立工事等を完了しなかったので、被告らは、原告に対し、平成四年一〇月一六日到達の内容証明郵便で、原告の右債務不履行を理由に本件契約を解除する旨の意思表示をなした。
3 原告から被告らに対する前業者の滞納地代相当分の支払は、本件契約期間三年間の土地使用占有に対する賃料もしくは権利金の性格を有するものであるところ、三か年は既に経過しているので、被告らはこれを原告に返還する必要はない。仮に賃料ないし権利金の性格を有するものではないとしても、右支払は原告が前業者のためになした立替払であるから、被告らには原告に対する返還義務はない。
四 被告らの抗弁及び主張に対する原告の認否
1 抗弁1の事実は否認する。
本件契約における「工事を三か年間で完了する」との約定は、工期を定めたもので、契約の有効期間を定めたものではない。
2 同2は争う。
原告が工期である三か年内に工事を完了できなかったのは、被告らが本件土地への進入道路を確保すべきであったのにこれを怠ったことによるのであるから、原告には右工事未完了について帰責事由がない。
3 同3は争う。
理由
一 請求の原因1の事実(本件契約の締結(ただし、本件契約において、本件土地への大型車(一〇トン車)車両進入道路は井川元右衛門らにおいて確保するとの約定が存したとの点を除く。))、同2の事実(井川元右衛門、瀬戸軍治及び横山政雄の死亡と同人らの各相続人による本件契約上の地位の承継)、及び同3の事実(本件契約に基づく原告による井川元右衛門らに対する滞納地代相当の金員の支払)は当事者間に争いがない。
二 そこで、以下、本件契約において、井川元右衛門らが本件土地への大型車(一〇トン車)の進入道路を確保する旨の約定が存したかについて判断する。
1(一) 証拠(甲六、一四ないし一七、乙一四ないし一六、一七の一ないし四、二六ないし二九、三一の一ないし一三、三四の一ないし三、三五の一ないし七、三七、四〇、四二の一、四三の一ないし八、四四の一・二、四六、四七、証人井川章、同佐藤次郎、被告杉本一郎本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件契約が締結された当時、本件土地に進入するには、井川章所有の神奈川県南足柄市怒田字長田<番地略>の土地(以下「井川章所有地」という。)の北川に存する道路(以下「本件進入路」という。)から入る方法と、同所<番地略>の土地の南側から井川章所有地の東側に通じる道路(以下「旧道」という。)を利用する方法とがあった。もっとも、旧道は四トン車程度の車両の通行は可能であったが、一〇トン車が通行することはできなかった。一方、本件進入路及びその付近の状況(平成一一年五月三〇日当時)は現時点では別紙図面(ただし、「旧土手通路三尺」の位置を表示した部分を除く。)のとおりであり(同図面の「埋立地」の部分が本件土地、「柿畑」が井川章所有地、「旧道」が旧道のうち井川章所有地の東側部分の一部である。)、同図面の「進入道路九尺(2.7メートル)」(以下「交換道路」という。)は、もと井川章所有地の北側部分の土地であったが、井川章が昭和四二年頃になした旧道のうち井川章所有地の東側部分との交換により、同人から道路として提供されたものであるところ(右交換の登記は未だなされていないが、交換道路は一般道路として利用されており、井川章は交換により取得した旧道部分を既に畑として使用している。)、本件進入路として現況道路となっているのは交換道路部分のみである。なお、本件契約が締結された当時は、別紙図面「カボチャ畑」「ナス畑」とある畑部分は雑草が生え荒れ地になっていた。
(2) 本件進入路付近には、交換道路と概ね平行に幅約三メートル程の水路(以下「水路」という。)と水路の両側に少なくとも九〇センチメートル(三尺)幅はあったと思われる国有畦畔(現在は南足柄市が国から譲り受け同市の市有地となっている。)(以下、交換道路側に畦畔を単に「畦畔」という。)がそれぞれ水路に沿って存在していたが、水路は昭和三八年頃土管を埋設して埋め立てられた(その位置は別紙図面「排水管」と表示されている部分付近である。)。埋立後の水路については、井川章が昭和四〇年頃から南足柄市より占用許可を受け以降農地として使用していた。ところで、畦畔は、水路に沿って存在していたので、水路部分を埋め立てた土地に接してこれに平行して存在していたことになるから、その位置は別紙図面「旧土手通路」部分ではなく、「排水管」とある部分の付近にこれと平行して存在することになる。しかし、畦畔は交換道路にも隣接しているのか、あるいは畦畔と交換道路の間に井川章所有の土地が存在するのか、そのいずれであるかについてはこれを明確にすることはできない状況にある。
(3) ところで、大型車(一〇トン車、八トン車)の車幅は二メートル四九センチメートルである(したがって、車輪の両外側端間の距離は二メートル四九センチメートルより幾分狭まることになる。)。交換道路は幅員が二七〇センチメートル(九尺)であるから、大型車が交換道路を通行することは理屈の上では可能である。しかし、大型車が交換道路に隣接する井川章所有地に何らの影響も与えないように通行することにはかなりの困難が伴う。
(二) 右認定の事実によれば、本件進入路としては、交換道路が使用できることは明らかであるが、交換道路のほかに、これに隣接して畦畔部分(少なくとも幅九〇センチメートル)が存在し畦畔部分も本件土地への進入路として使用できるかは明確ではないというべきところ、交換道路を大型車(一〇トン車、八トン車)が通行することは理屈の上では可能であるとはいえ、実際上はかなりの困難が伴うといえる。
2 証拠(甲一、七の一・二、一五、一六、乙一、二、一〇、一一、二二、三二の一ない五、四九の一ないし九、証人井川章、原告代表者山田證、被告井川繁由、被告杉本一郎)及び弁論の全趣旨によれば、本件契約締結時及びその前後の状況は次のとおりであることが認められる。
(一) 本件土地の埋立(正確には埋立対象地は本件土地と全く同じではなく、以下における各埋立業者との間で埋立につき契約が成立した都度、埋立対象となった土地には多少の出入りがあったが、いずれの場合も埋立対象地となった土地を本件土地と称する。)については、既に昭和四七年四月二六日、地権者が大箱根産業との間で本件土地の埋立に関する契約を締結し、同社が本件土地の埋立事業を始めたが、埋立は同社の倒産により中断した。右契約には井川章も契約当事者になっており、大箱根産業は本件進入路から大型車(八トン車)で本件土地に土砂等を搬入した。
(二) その後昭和五二年二月一一日大栄興業株式会社が、昭和六〇年頃小笠原産業株式会社が地権者との間で本件土地の埋立につき契約を締結したが、いずれも埋立事業につき官公庁の許認可を受けることができなかったため、事業に着手できなかった。井川章は、右各契約による埋立事業が産業廃棄物を利用することによりなされることから、右各業者による埋立に反対し、これら業者との契約においては契約当事者にはならなかった。
(三) ところで、被告井川繁由らは、本件進入路には九尺幅の交換道路に隣接して三尺幅の畦畔が存在し、合計一二尺(三メートル六〇センチメートル)の公の道路が存在するものと考えており、このことを証明する旨の昭和五八年四月二二日付「証明書」(甲七の一・二)を南足柄市長宛に提出していた。
(四) 原告と井川元右衛門らとの間の本件契約は、本件土地を農地とするために、良質の残土で埋立をすることを内容とするものであった。そして、本件土地への進入路としては、大箱根産業が本件進入路を大型車(八トン車)で通行していたことや、被告井川繁由らが本件進入路について前記「証明書」のような認識を有していたことから、本件契約にあたり、原告と井川元右衛門らとの間で本件進入路を大型車(一〇トン車)が通行できるか否かについては、それが当然に可能であるとして何ら問題となってはいなかった。
また、本件契約の契約書である「基本契約書」(甲一、乙一)にも、大型車(一〇トン車)の通行の確保については何らの記載もなかった。
(五) もっとも、原告は、本件契約にあたり、被告井川繁由ら地権者の作成した前記「証明書」を取得していた(ただし、右「証明書」は井川元右衛門らが本件契約を締結するにあたり原告宛に交付したものであるかは明らかではない。)。
(六) 井川章は本件契約にも参加しなかった。当時、本件土地付近の埋立事業については、地権者が賛成派と反対派とに分かれていた。
(七) 原告は、本件契約締結後の昭和六三年七月一五日から大型車(一〇トン車)を使用して本件土地に残土の搬入を始めたが、右搬入開始から一週間後に、埋立事業それ自体に反対する井川章から交換道路は自己所有地であるとして通行を禁止されたため、その後二日程して交換道路の使用を止めた。そして、原告は、旧道を利用して残土の搬入を試みたが、四トン車であればともかく、大型車(一〇トン車)で旧道を通行することはできず、四トン車のみでの残土の搬入では本件契約による埋立事業は採算が取れなかったため、以降埋立事業を中断した。
3 右2に認定した事実によれば、原告と井川元右衛門ら間の本件契約においては、地権者である井川元右衛門らが本件進入路につき及び大型車(一〇トン車)の通行を確保することを約する旨の明示の約定は存在しなかったと認められる。
原告代表者山田證は、本件契約上一〇トン車の通行に問題が生じたら地権者が交渉するとの約定があったとの趣旨の供述をするが、右(四)に認定した事実に照らし、右供述は直ちに採用することができない。また、甲二及び甲三には、本件土地への搬入道路の通行については被告井川繁由らが責任をもって井川章と交渉する旨述べたとの趣旨の記載があるが、甲二については少なくとも被告井川繁由及び瀬戸軍治作成部分の成立を認めるに足りる証拠はなく、甲三の記載については、記載内容自体が伝聞によるものである上、記載内容について裏付けがないなど、直ちにこれを採用し難い。
4 もっとも、地権者である井川元右衛門らは、原告から前業者の井川元右衛門らに対する滞納地代の支払を受けた上、本件契約においては本件土地を原告に残土埋立用に提供するだけでこれを農地にして貰えるとの利益を得る立場にあったことや、原告にとっては本件土地への大型車(一〇トン車)による残土の搬入が可能でなければ本件土地の埋立事業は採算の取れないものであったことに鑑みると、原告と井川元右衛門ら間に明示の約定がなかったとはいえ、本件契約の解釈としては、地権者である井川元右衛門らにおいて本件進入路につき大型車(一〇トン車)の通行を確保する旨の債務を負っていたと解する余地がないではない。
しかしながら、前記1にみたところによれば、本件進入路について大型車の通行を可能にするためには、井川章に交換道路の通行を認めさせることのほかに、大型車が容易に通行できる、交換道路以上の幅員を有する道路の確保が必要になるところ、少なくとも幅員九〇センチメートルを有する畦畔が交換道路に隣接しているかは明確でないことは前記1で述べたとおりであるから、井川元右衛門らが右畦畔の交換道路への隣接を保証することは困難であるといわざるを得ず、また、仮に畦畔と交換道路との間に井川章の所有地が介在するとすれば、井川元右衛門らが交換道路以上の幅員を有する道路を確保するためには、本件契約の当事者ではなく埋立事業に反対していた井川章から一部土地の使用権か所有権を取得しなければならず、これまた自己の支配領域内に属しない極めて困難なことであったといわなければならない。
そうとすれば、本件契約において井川元右衛門らが本件進入路につき大型車の通行を確保する旨の債務を負い、右債務を履行できなかったときは、これに基づく損害の賠償にも応じなければならないと解釈することは、右にみたような当該債務の履行の可能性がもともと極めて困難であったことに鑑みると、明示の約定がなかったのに、本件契約においてそのように解釈することは、本件契約の一方当事者である井川元右衛門らに酷な結果となるというべきであり、したがって、本件契約において、大型車の通行確保につき錯誤を問題にするなどの余地はあり得るとしても、井川元右衛門らは本件進入路につき大型車の通行を確保する旨の債務を負っていたと解釈することは相当ではないというべきである。
三 以上の次第であるから、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
よって、原告の本訴請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
別紙 図面<省略>